代替的リスク移転手法(ART)

ARTは、リスクの多様化、巨大化などに対応する新しいリスクファイナンス手法です。 リスクの証券化、保険デリバティブなどがその実例です。 私たちは、企業のリスク処理にこれらのART手法がどのように導入できるかを考え、企業のニーズに応じた対策を提案します。

ARTとは

ARTとは、保険を代表とする従来のリスク移転手法の代わりとなるリスク移転手法です。 伝統的な保険もしくは自家保険では処理しきれないリスクに対して、数々の代替的リスク移転手法 (Alternative Risk Transfer = ART) が考案されてきました。ARTは、従来の保険会社が提供してきた保険商品とは異なり、保険会社以外の業界も参加するリスク・ファイナンス手法の総称です。

ARTの仕組み

ファイナイト

大数の法則が働かず、保険会社の中でリスク分散が困難なリスク(例えば環境汚染リスク、自然災害リスク、ポリティカルリスク等)を対象とし、損失を時間的に分散させることによってリスクを処理する方法です。この方法では、企業と保険会社との間でリスク・シェアリングが行なわれ、保険会社は時間的なリスクのみを負うことから、保険会社に移転されるリスクは限定的(ファイナイト)となります。この手法は、法務・税務・会計規則等様々な議論が関係しますので、専門家によるアドバイスを得ることをお勧め致します。

【解説】

  • 1年目、2年目は保険料を10億円づつ支払います。2年目に30億円の損害が発生した場合、3年目から保険料は12億円に増加します。4年目に20億円の損害が発生し、通算支払限度額の50億円に達した場合でも、5年目の保険料は支払義務が続きます。もし5年間無事故の場合、支払保険料総額(50億円)の90%が返戻されます。
  • この仕組みにより、保険会社側は早期に損害が発生した場合に保険料の運用ができなくなるというタイミングリスクを負いますが、5年間の収支は最終的にバランスします。
  • 一方、企業側は毎年10億円(損害が発生した場合は12億円)の経費が発生しますが、当該費用は保険料として外部の保険会社に積立てられます。また、損害が生じた場合には50億円まで保険金として受取ることができ、もし5年間無事故であれば保険料の90%が戻ってくるため、企業経営の安定化を図ることができます。

キャプティブ

自家保険を発展させたリスクファイナンシングの方法としてキャプティブがあります。 → キャプティブ保険会社参照

コンティンジェント・コミットメントライン
(緊急時融資枠予約契約)

この方法は、銀行等の金融機関との間で予め融資枠予約契約(コミットメントライン)を結ぶことによって、地震等の災害時に非常資金を借入れによって調達する方法です。 この方法のメリットは、自己資本を使って準備金を積立てる方法に比べて、他人資本を使うことによって、緊急時のキャッシュフローの悪化に備えることができる点です。また、企業が事故後に融資を受ける場合、健全な時に比べて条件が厳しくなりがちですが、予め緊急時の融資条件を固定しておくことによって、事故後の借入れ条件を安定化させる効果もあります。 しかし反面、一旦巨額な事故が起こった場合、巨額の借入れが生じることから、企業のバランスシートを著しく悪化させる可能性もあります。

キャットボンド(災害リスク担保債券)

リスクの証券化の実例です。 具体的には、災害リスクの出し手となる企業(オリジネーター)が特別目的会社(Special Purpose Company = SPC)を設立して債券を発行させ、当該債券を購入した投資家から集めた資金を同SPCにプールします。そして当該債券は、災害指数に連動して元本や金利償還のデフォルトが生じるように仕組むことによって、災害発生時の企業の財務リスクを投資家に移転する方法です。本仕組みは、SPCを設立したり、投資家を引き付けるためにある程度高い利回りを設定するなど、保険と比べて手間とコストがかかりますが、保険市場よりも遥かに大きい資本市場のキャパシティを利用することができます。

ポートフォリオ・リンクド・スワップ(災害指数連動スワップ)

企業が抱える災害リスクを、予め第三者機関によって客観的な数値に置き換え、同数値に基づいて想定元本およびそれに対応する金利を設定します。企業側は、同想定元本をベースとした固定金利を投資家に支払う一方、対象としている災害の発生時には、投資家側から予め定められた資金を変動金利として受取れるような金利スワップ取引を仕組みます。この方法は仕組みが簡単である反面、巨大なリスクの移転には適さず、また相手方が支払不能に陥った場合の信用リスクも残ります。

これらの証券化やデリバティブ手法の特徴は、保険リスクと相関関係にある気象データ等の客観的なデータを指数化することによって、当該リスクを取引の相手方に移転することにあります。しかし保険と大きく違う点は、保険金の支払いをより客観的かつ迅速に行なうために、保険金を実損額とリンクさせずに「外部のインデックス(指数)」をトリガーとして利用する点です。従って、損害が発生した際に、実損額と支払われる保険金額との間に乖離が生じるというベーシスリスクが残ります。